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2010年1月17日 (日)

ドイツの公共テレビ政治番組と「コペンハーゲンCOP15の舞台裏」

私が時々、ドイツの公共放送ラジオやテレビの内容を紹介するのは、
ドイツが自他ともに認める環境先進国を支える大きな役割を果たしているからです。

ドイツ人は環境意識が高いとよくいわれます。
それは、連邦政府が本格的な環境政策を始めて以来40年間、
ラジオやテレビから(活字メディアからもですが)環境問題に関する豊富な質の高い情報を得てきたためです。

ドイツの公共放送は、
戦後英国のBBCを手本に連合国によって導入され、
国家の干渉を受けず公共性に根差し、
政治的・経済的勢力の利害に左右されることなく運営されてきました。
(この点が、ニュースの論評から人事の口利きにいたるまで、長年自民党や野党の国会議員と癒着してきたNHKと大きく異なる点です!)

連邦制のドイツには、9つの州放送局(第三放送)があり、
これらが合同で「ドイツ第一放送(ARD)」と「ドイツ第二放送(ZDF)」を、
受信料によって運営しています。

以前のエントリですでに、ARDやZDFのHPで、コペンハーゲンの気候サミットCOP15に関する特集が大きく載っていることは紹介しました。

連日、特集記事の内容は更新され、
ARDとZDFを合同で運営する個別の州放送局のHPにも、
各局独自の気候変動関連情報を載せていました。
これだけでも、いかに情報が豊富かがわかると思います。

さて、今回はその公共テレビの政治番組の話です。
ARDでは、月曜日と木曜日の夜の番組枠で、
各々3つの州放送局が交替で6つの政治番組を放送しています。
これら6つの番組のほとんどは1960年代始めに開始したものです。

ZDFでも、1971年から名前を変更しながら続いている45分間の政治番組が
火曜日の夜放送されます。

連邦州によっては、右寄りの政権もあれば左寄りの政権もあるので、
左寄りの州放送局の番組が右寄りの州政権を番組中で批判し、
批判された政権から「予算を削れ」と抗議されるようなこともありました。

このように、ドイツの政治報道は、
政治の監視役としての役目をしっかり果たしながら、
戦後の民主主義を支えてきたのです。

政治番組では、当然のことながら政治家の説明責任が問われます。
自分の言葉で丁々発止の議論ができなければ、ドイツでは政治家は務まりません。

番組を制作するジャーナリストたちは、
政府のためではなく、
有権者である視聴者のための番組作りを使命とする自覚をもっています。

ですから、ある政治家が数年前と矛盾する内容の発言をしたら、
映像できちんと昔と今の発言を比較してくれますし、
役所からの文書は原則公開(ドイツでは「情報公開法」は必要ないのです)ですから、
視聴者にそのままテレビ画面で読ませてくれます。

大臣などの政治家が、説明責任を求めたインタビューを断ったら、
名前と写真入りで「断られた」と報じます。

前置きが長くなりました。
ドイツの公共放送だけでなくマスメディアについては、
また折に触れてしつこく書いていくことにします。

北部ドイツの第三放送局(NDR、ハンブルク)の政治番組で、
BBCのPanoramaを参考にし1961年にスタートした「Panorama」が
昨年12月10日に「コペンハーゲンCOP15の舞台裏」
を放送したので、ご覧ください。
ドイツの公共テレビのHPでは、
通常1年前くらいまでの政治番組を、
オンラインで見たり読んだり(!)することができます。
この点も、NHKと大違いです。

ドイツの閣僚発言などはありませんが、
ほんの少しだけ、ドイツの政治番組がどんなものかは味わっていただけると思います。

「コペンハーゲンCOP15の舞台裏」

http://daserste.ndr.de/panorama/media/panorama376_format-flashhi.html

ドイツ語なので、非常に大雑把ですが、以下に7分半くらいの番組の概要を書きます。

<ナレーター>
この人は、サウディアラビア人、モハマッド・サバーン
我が国ではまだ知られていなくても、コペンハーゲンでは誰もが知っています。
地球の大気を熱くできる一人ですから、この顔を覚えておいてください

(国際会議の通訳者たちの画面)
本来この人たちは、地球の気候を救うための提案を通訳するはずだが、
ある国の経済的な豊かさを守るための通訳をすることもある。

<サバーン> 約1分後
気候変動は本当に起きているのか?
この会議の合意によって我が国の経済が大きな打撃を受ける。

<ドイツ緑の党の議員、かつての代表団>
サウディアラビアにはこの20年間、礼儀正しくあちこちに小さな爆弾を仕掛けるようなシステムがある。

<ARDがサバーンにインタヴューを申し込んだが、「後で」と会議室へ>

<1997年京都会議でのエストラダ議長、自らの経験からサバーンのシステムについて>
サバーンのやり方は、もう長年気候サミットでいつも同じ。
30くらいのワーキンググループが同時に開かれるが、すべてにOPECから誰かしらを送り込み、包括的な合意を阻んできた。

<ナレーター>
OPECは、合意によって石油が売れなくなるからと、損害賠償を求める。

<会議室から出てきたサバーンにARDが再びインタヴューを申し込んだが、質問を振り切って逃げる>
サバーンさん、あなたはなぜ気候変動に懐疑的なのですか?・・・

<ナレーター>
サウディアラビア石油省から委託された、長年にわたって最も影響力のある妨害者。
メディアに対して内気な訳ではなく、自国のテレビには堂々と出演。

<サウディアラビア国営放送で、民族衣装を纏って語るサバーン>
先進国の唯一の目的は、我々が輸出している石油に依存しなくなることだ。

<ドイツNGO「German Watch」の環境顧問>
自分の知らないことを他の人間が知っていることに我慢がならない。個人的な苦情を絶対通したい。個人的な利害のために強引に可決させたい。

<ナレーター>
利己主義者と理想主義者の闘い

<まさにその中間にいる国連の気候保全事務局の二人>
8日以内に妥協案を見つけなければならない。誰もが取引をしたいが、取引で自国の利益を損ってはならない。非常に難しい。

そのうち政府首脳もやってくる。良い結果を出さねばと、非常に大きな信じられないほどのプレッシャーを感じている。


<もう一人の妨害者、ロシア代表団の一人>
我々の大統領が、「90年比で22~25%のCO2を削減する」と、すでにEUで表明している。

<つい最近のロシアのテレビ番組「欺瞞の歴史」>約5分後
氷山が融ける、
海面が上昇する、
旋風を伴う嵐が増える・・・
すべてあなたのせいだ。
困った? 
心配することはない。 
すべては嘘だ!

<ドイツ緑の党議員>
問題なのは、ロシアの科学者の多くが、気候変動は自国にとって良い現象だと言っていること。シベリアの凍土が融ければ、トウモロコシを栽培できると。

<ナレーター>
もう一度、ロシアの代表団に、気候変動に関して実際のところどう考えるのかを聞こう。

<ロシア代表団の一人>
気候変動は、ポジティヴなことだ。暖房費を節約できる。私たちの国は寒冷期が長いので、住宅や工場の暖房費用がかなりかかる。


<ナレーター>
節約できる暖房費、
富裕な産油国経済のための弁償費・・・
このままでは、気候サミットの交渉は、本当に決裂してしまう。

<ドイツNGO「German Watch」の環境顧問>
ある意味笑えるような、悪い冗談のようだが、サミットでは彼らは真剣に圧力をかけて具申してくる。

<ナレーター>
他の皆は、世界を救いたいが、
サバーンは、石油を守らねばならない。

他の国々は、環境分野の専門家を派遣したが、
サウディアラビアは、国民経済学者で石油省のボスを派遣した。

(以上)

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